大学院音楽学研究室ブログ-Osaka College of Music

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書籍のご紹介

19世紀パリのサロン・コンサート―音楽のある社交空間のエレガンス

19世紀パリのサロン・コンサート―音楽のある社交空間のエレガンス

 大学院修了生の福田公子さんから、音楽学資料室へご著書が寄贈されました。
 福田さんよりメッセージを戴きましたので、ご紹介いたします。

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2009年秋、母校の阪大で開催された全国音楽学会後のレセプションで交わした短い会話を、筆者は思い出す。「博士論文は、自費でもいいから出版しておくほうがよいです。」あれから4年の歳月が流れた。そして筆者は、今、心から、その方に感謝している。会話の相手は当音楽大学音楽学教授、井口淳子先生である。その一言が無ければ、おそらく、本書は誕生していなかったに違いない。
 また筆者は、今から10年以上も前の、パリでの一枚の図像との出会いを思い起こす。画面から発する「自発性、親密さ、統一感、そしてエレガンス」が筆者の心を虜にした。こうして、「19世紀パリのサロン・コンサート」探求の旅は始まったのである。以来、暗い冬のパリの空の下、そしてプラタナスの緑がセーヌに映える初夏の頃、筆者は資料を求めて歩いたものだった。
集めた多くの資料、たとえば『ガゼット・ミュジカル』(Revue et Gazette Musicale de Paris)や『マイエ公爵夫人の回想録』など、また19世紀の貴族・貴族夫人たちによる書簡集、日記から「サロン・コンサート」に関する記述を、まずピックアップした。加えてショパン、リスト、ベルリオーズなど、当時のサロンに関わった音楽家たちの手紙、音楽批評などなどを援用し、パリの様々な年代と各地区で行われた音楽夜会の実態を描いたのが本書である。出版に際し、オリジナルの論文にかなり手を加えた。第一に、設定を「パリのサロン・コンサートを訪問する旅」とした。読者は旅人となり、時空を超えて、革命後のパリの激動の時代に立ち会うことになる。第二に、文体を変えて、読者が「本を読むという孤独な作業」に退屈せずに参加できるように工夫した。第三に、図版を多く採用して、読者の想像を助けた。
作曲家・作品中心の音楽史を「表の音楽史」と呼ぶなら、本書は「秘められた音楽史」あるいは「女性が織りなす音楽史」だとも言える。昨今静かなブームを呼んでいる「日本ヴァージョンのサロン・コンサート」をここで一度見直して、是非「本場パリのサロン・コンサート」を知っていただきたい。きっと誰しもが心の中で望んでいるのではないだろうか?「音楽が終わった後、急いで家に帰りたくない。もっと聞いた曲についておしゃべりしたい」と。フランスのサロン・コンサートではそれが出来たのだ。なぜなら、かの国では、まず「サロン」ありき、だったから。私たちにもそれは可能だ。「サロン文化」を少し学びさえすれば。「多様性とネットワーク」、これが「サロン風人間関係」の基本である。本書を、そのような観点から読んでいただくことも、筆者にとっては大きな喜びである。 
  (2001年 大阪音楽大学大学院修了)

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