大学院音楽学研究室ブログ-Osaka College of Music

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上海で考えたこと

 9月初旬に10日間、上海で西洋音楽の専門教育(1940年代以前)について調査をおこなってきました。

まず、最初の3日間はこの分野の専門家たちへのインタビューを行いました。なんと孫寧寧さん(3年前に音大に1年間留学)がアシスタントをつとめてくれたのです!彼女はこの9月から上海音楽学院のスタッフ(助手のような立場)になり、昼間は仕事があるのですが、夜はインタビューにつきあってくれました。上海では自宅に来てくれ、といわれるので、かなり郊外に住んでおられる研究者の自宅まで二人で一緒に出かけました。私の隣でメモをとり、帰国前夜にはワードファイルで送ってくれたのには大助かりでした。孫さん、ありがとう!!

 後半のメインは、インタビューで得た情報をもとに、上海図書館、上海交響楽団資料室、上海音楽学院資料室などで一次資料を集める作業です。偶然にもこの3つの機関の場所は互いに数キロずつ離れた三角形になっています。旧フランス租界のプラタナスしげる道をてくてく歩いていくか、地下鉄を一駅のるかで3カ所を回ることができるのです。
 そんな多忙ななか、息抜きとなったのが、旧知の趙老師とご一家との再会でした。ご自宅での夕食、日本式居酒屋での会食、本格的イタリアン(建物が租界時代の洋館)、そして「新天地」という外国人が夜になると集まってくるジャズバーなどが密集する娯楽街など、上海をエンジョイするためにいろいろと心を砕いていただきました。

 今、日中関係は急激に緊張が高まっています。ニュースでは連日報道されていますが、過激な抗議行動やインターネットで日本批判をする人は13億人のなかの数百人です。多くの市民は、中国国内の報道が政府によってコントロールされていることを知っています。
 少なくとも、今回の調査で、貴重なお話や、資料を見せてくださった関係者は、私が日本人であっても、できるかぎりの協力を惜しまない方々でした。とくに上海交響楽団資料室のスタッフは、一次資料の箱をそのまま渡して、デジカメで(フラッシュなし)撮影することや、コピー可能なものはスタッフ自身がコピー機で丁寧に数百枚のコピーをしてくださったのです(もちろん有料ですが)。

 作業を終えて、夕方、中庭を出口にむかって歩いていると秋の公演のためのオペラの練習の音がきこえてきました。フルオーケストラと独唱者が本番さながらに練習していたのです。こっそりその建物の階段をのぼりドアの窓から練習を見てしまいました。「ああ、日本と同じ、ここには音大のオペラハウスと同じ空気がながれている!」。
 大学のそばにプロが活躍するオペラハウスがある、その贅沢を今一度思いだしたのでした。
(井口淳子 9月21日記)