大学院音楽学研究室ブログ-Osaka College of Music

大阪音楽大学大学院音楽学研究室に関連するお知らせをお伝えしていきます。研究室mail address:ongakugaku@daion.ac.jp 最新情報はTwitterで!

★音楽畑春号2007巻頭言 井口淳子

〜春の浜辺で〜

井口淳子

 3月末の3日間、私は石垣島にいた。数年前にある集落で偶然で出会った唄を再び録音するために。
 初日は夕刻に空港に到着、集落に着いたのは夜だった。翌朝、私はまだひっそりとした浜辺を歩いていた。天気がよく、海は輝き、白い砂浜がまぶしい。うちあげられた流木にカメラを置き、自動タイマーで自分の記念写真をとろうとした、そのとき、通りかかった頑丈そうな体躯のおじさんが「撮ってあげるよ」と声をかけてくれた。
 立ち話をしているうちに、私が今夜、石垣市内に出かけること、おじさんも仕事が終わると、市内の自宅に戻ることがわかり、「ついでだから車に乗っていくといいさ」ということになった。

 おじさんは「へーえ、仕事できてるの、じゃあ、どこにも行ってないんだね、ついでだから御神岬を見せてあげよう」。そして次にパンナ岳に向かった。展望台で、石垣島を一望しながら、おじさんが長く船主として外国で漁船を操業していたこと、今は家族のために故郷で観光用のグラスボートを操業していることをしった。「グラスボートの仕事は漁業とくらべると退屈じゃないですか?」と尋ねると「どんな仕事だって考えようによったらいい仕事。生活だって考えしだいで楽しくも不幸にもなるさ」と笑いとばされた。
 別れ際、「また会えるといいですね」というと「二十年後に会っても女の人は化けるからわからんさー」と笑った。
 大阪では知らない人の車に乗ることはありえない。だからこういう出会いもおこりえない。私たちはもっともっと出会いたいのに。そういえば、明日から四月、出会いの季節…。

3月31日記