能登原由美のロンドン滞在記(1)
ロンドンにあるKing’s Collegeの音楽学科で1年間、客員研究員をすることになり、8月末に渡英しました。コロナと戦争の影響で、予約した飛行機のキャンセルや変更が相次いだり、ビザの取得に7週間もかかったり(通常は1週間程度とのこと)、荷物の郵送にはEMSしか使用できなかった上に関税なども付加され費用が相当嵩んだりと(しかも届くまでに3週間も!これはRoyal Mailのサービスが明らかに悪いと断言しますが、長くなるので詳述は控えます。とにかく、今は荷物を送らないことがベスト)、予想をしていたとはいえ、現在に至るまでにさまざまな場面でハプニングに直面しています。
けれども、最も大きな出来事は、こちらに来て1週間が過ぎたばかりの9月8日に、エリザベス女王が崩御したこと。その夜にはBBC PROMS(イギリスが誇る夏の音楽祭)でのネゼ=セガン指揮、フィラデルフィア管弦楽団のコンサートに行く予定にしていたのですが、急遽中止になり、代わりに彼らはイギリス国歌とエルガーの〈ニムロッド〉を演奏しました。この女王崩御の日に体験した出来事については私のブログにまとめていますので、そちらもご覧ください(「音の記憶」https://yumi-noto.hatenadiary.com/entry/2022/09/11/011928)。それから19日の国葬までの10日間、私はほぼ毎日コンサートやオペラに出かけましたが、どのコンサートでも必ずイギリス国歌か追悼の音楽(例えばバッハの「G線上のアリア」など)が演奏されたのは印象的でした。
さて、ここでは、これから1年間、私が研究面でお世話になる予定のKing’s Collegeと大英図書館について簡単に紹介しておきたいと思います。
まずKing’s Collegeですが、ロンドンに1829年に設立された大学で、音楽を含む人文学の他、法律、社会科学、自然科学、医学など9つの学部を抱えています。キャンパスはロンドン市内に点在していますが、音楽学科は最も歴史あるキャンパス、すなわちロイヤル・オペラ・ハウス近くのストランド・キャンパス内にあります。
先日、初めて学科を訪ねてみましたが、2棟ぐらいが割り当てられているようでかなり大きく、迷子になりそうだったのでその全体像を確かめるのは次回にしました。また、その日はちょうど新学期最初の週(9月始まりなのでアカデミック・イヤーの始まりでもある)にあたり、キャンパス全体が新入生で溢れかえっていました。ただし、貴重な音楽コレクションのある図書館は別の建物にあり、今後はそちらに通うことになりそうです。
一方、大英図書館ですが、貴重な書籍コレクションを有することで知られる世界有数の施設です。音楽に関する書籍は、貴重書を閲覧する部屋、すなわち「Rare Books and Music」に配架されています。もちろんイギリスの作曲家のみならず、例えばバッハの自筆譜など貴重な楽譜コレクションも数多く所蔵しており、ちょうど部屋の入り口にはバッハの肖像画が掲げられていました。もっとも、電子化が進んだ現在では現物を直接見ることは難しくなったようですが、一昔前までは16世紀の写本などでさえ直に手に取って閲覧することができました。ただし、こうした閲覧室だけではなく、図書館内にあるカフェテリアなどでコーヒーを片手にパソコンを広げて勉強(研究)に勤しむ人々が非常に多い(午後に来ると席は取れない)のも、この図書館ならではかもしれません。けれども、作曲された当時の資料を手にすることはここでしかできません。やはり「Rare Books and Music」の部屋で資料に当たりながら研究する方が私の性に合っています。
では、これらの施設で私が何を研究するのか、ということなのですが、それについては次回改めてご報告いたしますので、ぜひまたお付き合いください! (能登原由美 9月25日)